麻酔を発見した男達の末路 ⑦ vol.572

 

◇ しかし、最も早く最も悲惨な

    最期を遂げたのはウェルズであった。

 

 麻酔を巡る争いに疲れたウェルズは

    歯科医を廃業。

 

複製画を額に入れて

本物に見せかけて売ろうとしたりと、

 

怪しげなビジネスに

手を出して失敗を重ねていく。

 

1848年、ウェルズは心機一転、

     ニューヨークにやってきた。

 

一度は辞めた歯科医の仕事を、

エーテルの代わりにクロロホルムを

麻酔に使うことで再開しようと考えたのだ。

 

ウェルズは新聞広告で、

麻酔を発見したのは自分であり、

 

これまで誰一人として

体調を崩した人はいないとした上で、

 

「その感覚はきわめて愉快なものです」

 

と結んでいる。

 

 なぜ、「愉快」なのか……

 

クロロホルムは幻覚を引き起こす薬物であり、

依存性が強く、最悪の場合には死に至る。

 

亜酸化窒素のときと同様に、

自らが実験台となってクロロホルムの効果を

試す日々を送るうちに、

ウェルズは中毒になってしまった。

 

◇ 18481月、

   ウェルズはニューヨークの

    警察署の中にいた。

 

娼婦に硫酸を次々にかけたとして

逮捕・収監されていたのだ。

 

前夜に実験のためにクロロホルムを

大量に吸引したことまでは覚えていたのだが、

その先のことは覚えていなかった。

 

正気を取り戻したウェルズは、

自らが犯した罪に愕然となった。

 

有罪となるのは確実であり、

恥知らずの犯行は、

 

麻酔の発明者としての名誉を台無しにし、

妻や知人たちを深く傷つけることにもなる。

 

◇ ウェルズは獄中で、

     事の顛末を記した手記を書いている。

 

「私のせいで、身内の者が

  どれだけ苦しむことになるのだろう。

 

    さらにつらいのは、

    重要な発見にかかわった者として、

    私の名が科学の世界では

     よく知られていることだ」

 

と絶望的な胸の内を吐露する。

 

翌朝、独房で死んでいる

ウェルズが発見された。

 

秘かに持ち込んでいたかみそりで、

左足の動脈を切り裂いたのだ。

 

傷口は十五センチもあり、

骨に達するほど深かったという。

 

「麻酔の発見」からわずか

  3年後のことだった。   

                           つづく

 

 

今日一日の人生を大切に!

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