来歴 ① vol.1046

◇「宗左近」という迫力のある

   殺気のある詩人に出会った。

 

    北九州市戸畑の出身。

 

東京大空襲の際、

目の前で母親を失った喪失感と

必死に生きていくために、

 

自分自身に叱咤激励して発した

「そうさ、こんちくしょう!」が

ペンネームの由来。

 

少し長くなるがその代表作を紹介する。

 

   来 歴   宋左近

大阿蘇の噴き上げる火山灰が

奈良平安元興建武の武将の

収奪殺戯の歴史をふかぶかと埋めて眠る

 

熊本県菊池郡隈府町の

放ち飼いの若駒の朝日にむけて

 

ほとばしらせる放尿のように

爽やかな菊池川のしぶきをあぴて

 

腐り傾き沈んでゆく

暗い水呑み百姓の蚕部屋の片隅で

 

西南戦争の茶色い記憶も薄れた明治二十年

 

落ちきった紅葉が泥にまみれて汚い冬

 

間びきそこねて生きのこりの赤ん坊

 

一人の兄二人の姉一人の妹

一人の弟をもつ嬰児

 

妹と弟のための子守女であり

兄と姉との下女である幼女ために

小学校には一日も通わず

 

もっぱら川原の小石を数えて

すすり泣き泣き遊び

 

日が落ちては機を織りながら

機のうえに眠りこむ

 

十二歳より十九歳

日清日露の戦争の谷間

 

長崎市三菱造船所そばの

勧工場花売り娘

 

明治四十四年庶子の一男をうむ

 

長崎市某所某寺住職植村某の

認知するところ

改元して大正の日もあさく不縁

 

同じく大正五年一男を連れ子して

二十歳年長の流浪敗残の

老博徒古賀丑之助の妻となり

 

大正八年五月一日あらたに一男をうむ

 

母よ

 

これがわたしの知っている

わたしの生まれるまでの

あなたの歴史のすべてです

 

あなたがどんな娘時代をおくったのか

 

どんな理由で最初の男性と別れたのか

 

どんな恋と夢を持ったのか失ったのか

 

あなたはもちろん

あなたのきょうだいの

誰も語ってくれないままに

 

みんな背をぬけて

あちらにいってしまった

 

ただ一人兄が残っているのだけれど

どうにもわたしは聞きだせないし

兄は兄で語ってくれる気はないもようです

 

おそらくあなたの話のなかには

そこがお墓のなかででもあるかのように

 

生きている限り兄とわたしが

はいってゆくことはないでしょう

            つづく

 

 

今日一日の人生を大切に!

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