来歴 ② vol.1047

母よ

 

タニシにように苦い泥をのんで

黙りこくっている

歴代百姓の系列の肉親の

 

突然変異の特別柔弱であった

そのためだけに

 

子守も下男も田植えもできなかった

そのためだけに

 

あなたの長崎よりも

はるかに遠いパリなんぞに

さまよっている

 

母よ

 

わたしはノートルダム寺院の

住職になんぞなりたくはない

 

ノートルダム寺院を打ちこわして

売りさばく古銅鉄仲買商人に

なってやりたいのです

 

母よ

 

そのわたしが最後まで

打ちこわさないでおくものを

知っていますか

 

ながびさしにかかる

雨水おとしのガルグイーユの

 

あのお化けみずから

呑んだものでないものばかりを

吐きだしているあのお化け

 

あいつをゆっくり

たたきこわしてやりたいのです

 

あいつ自身の身体のなかに

しみこんでいる

 

あいつ自身でないものの沈殿した泥を

ゆっくりと腑分けしてやりたいのです

 

母よ

 

あなた自身の誰も知らせてくれない

自身の生活が

 

素通りして流れ落ちるために作られた

わたしというお化けを

 

ゆっくりたたきこわして

やりたいのです

 

 

この詩で中心となるのは

  母親の「来歴」だが、

 

「母」という言葉は

後半に入らないと出てこないので、

詩全体を読まないとわからない。

 

「来歴」というタイトルが

つけられてはいるが、

 

この詩でいちばん強調されているのは、

まさに来歴の欠如である。

 

泥をのんで黙り続ける母の人生は

壮絶そのものである。

 

そしてそのような寡黙な人生から

聞こえてくる声を語ってしまう

「宗左近」という詩人も、

 

まさに卓絶そのものである。

 

 

今日一日の人生を大切に!

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