ある男とある男の物語 ②   vol.303

 

   児小姓になり、殿様の寵愛を受ければ、

      行く末は約束される。

 

   児小姓 → 目付 → 御用人   に昇進し、

   一代家老にのぼりつめるのも夢ではない。

 

 出世街道まっしぐらである。

 

ところが、ところがである。

 

山三郎は

「自分には、悪い持病がある」などといって、

  殿様のお召しに応じようとしない。

 

   父親はそれは惜しいと、いろいろ説得したが、

  一向に聞き入れない。

 

 「強いるなら自害する」

 

 と言い出す始末で、

 

母親も困ってしまい、

「どうしたことか」と、

易者のところに行くことにした。

 

映画「君の名は」主題歌「前前前世」

 

「君の前前前世から僕は君を探しはじめた」

 

という歌詞があるが、

 

その彼の前世に 母親は疑いを持ったのである。

 

そして

山三郎の「前世」を占ってもらうと、

 大変なことがわかった!

 

◇ 易者の占(せん)によれば、

 

     山三郎 の 前前世

 

  「鎌倉建長寺の虎斑(とらふ)の男猫

 

    であるという。

 

この男猫は「彼の友である猫」

大変なあわて者で、

 

春の彼岸の陽気の時分、

あやまって、ムラムラと気分が高揚し、

 

スキを見せた瞬間に背後から交尾され、

 

「脱肛の病となり」

 

死んでしまったのである。

 

  しかし、建長寺という仏法の林に住み、

  毎日毎日お経を聞いていたおかげで、

 人間に生まれ変わることができた。

 

  ただ 「いまだ因縁の熟さぬゆえ」

  京の島原遊郭の女郎に生まれ変わった。

 

  これが山三郎の 前世 である。

 

  ところが、悲惨な運命から逃れられずに

 

 大尽の客の無理所望にあいて、

  その跡がまた痔瘻(じろう)になって

   程なく「身まかりぬ」と、

   また悲しい死を遂げた。

 

  これでは、あまりに可哀想である。

 

 天帝が特例として、

   男猫をふたたび人間にした。

 

  しかも男子の美しい生まれにした。

 

  「それが山三郎じゃ ! 

 

と前世占いの名人は言った。

 

 

◇ 母親は

 「なるほど児小姓奉公を嫌がるはず」

  と納得した。

 

  しかし、ここで話は終わらない。

 

山三郎は別の秘密を持っていたのだ。

 

  実は、すでに「男」がいたのである。

 

◇ それを知らずに山三郎に言い寄った男がいた。

 

    山科三太夫  阿漕惣左右衛門  の 二人である。

 

  この二人がどんなにせまっても つれない。

 

  山三郎の彼氏はさぞかし美丈夫であろうと、

  皆が想像した。

 

  ところが、  意外!    意外

 

山三郎の彼氏は

 

「頭には一筋の黒髪もなく、

   歯は皆落ち、入れ歯のハゲタオヤジ」

 

   山藍道可(やまあいどうか)という

   六十三歳の男であった。

 

  ◇ 言い寄った二人のうち、

     山科はあっさりしたもので、

 

     山三郎と山藍が寝る横で

  「すましきった了見」で独り寝をした。

 

    ところが阿漕のほうは おさまらず、

 

    美少年の山三郎と山藍が寝るのは

 

「花の木にふんどし、かけたようなこと」

 

   と二人は怒り、老醜の山藍を

  たちまち討ち殺してしまった。

 

  愛するオヤジを殺された

  山三郎は仇討ちを決意し、

 

  山科と二人で阿漕を討った。

 

  その首をオヤジの墓前に供えて、

  切腹しようとしたが、

 

  そのとき、山科が「早まるな」と止めた。

 

  結局二人は 藩を出奔 

 

山科は 山三郎をやっと手に入れたという。

 

男、女にかぎらず、

恋愛はどう転ぶかわからない。

 

たしかにそういうことは

いまの時代でもあるかもしれない。

 

 女にも  

いやそれ以上に  男にも

気をつけなければならない。     

              完

 

今日一日の人生を大切に!

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