◇ 児小姓になり、殿様の寵愛を受ければ、
行く末は約束される。
児小姓 → 目付 → 御用人 に昇進し、
一代家老にのぼりつめるのも夢ではない。
出世街道まっしぐらである。
ところが、ところがである。
山三郎は
「自分には、悪い持病がある」などといって、
殿様のお召しに応じようとしない。
父親はそれは惜しいと、いろいろ説得したが、
一向に聞き入れない。
「強いるなら自害する」
と言い出す始末で、
母親も困ってしまい、
「どうしたことか」と、
易者のところに行くことにした。
映画「君の名は」主題歌「前前前世」に
「君の前前前世から僕は君を探しはじめた」
という歌詞があるが、
その彼の前世に 母親は疑いを持ったのである。
そして
山三郎の「前世」を占ってもらうと、
大変なことがわかった!
◇ 易者の占(せん)によれば、
山三郎 の 前前世は
「鎌倉建長寺の虎斑(とらふ)の男猫」
であるという。
この男猫は「彼の友である猫」が
大変なあわて者で、
春の彼岸の陽気の時分、
あやまって、ムラムラと気分が高揚し、
スキを見せた瞬間に背後から交尾され、
「脱肛の病となり」
死んでしまったのである。
しかし、建長寺という仏法の林に住み、
毎日毎日お経を聞いていたおかげで、
人間に生まれ変わることができた。
ただ 「いまだ因縁の熟さぬゆえ」
京の島原遊郭の女郎に生まれ変わった。
これが山三郎の 前世 である。
ところが、悲惨な運命から逃れられずに
大尽の客の無理所望にあいて、
その跡がまた痔瘻(じろう)になって
程なく「身まかりぬ」と、
また悲しい死を遂げた。
これでは、あまりに可哀想である。
天帝が特例として、
男猫をふたたび人間にした。
しかも男子の美しい生まれにした。
「それが山三郎じゃ ! 」
と前世占いの名人は言った。
◇ 母親は
「なるほど児小姓奉公を嫌がるはず」
と納得した。
しかし、ここで話は終わらない。
山三郎は別の秘密を持っていたのだ。
実は、すでに「男」がいたのである。
◇ それを知らずに山三郎に言い寄った男がいた。
山科三太夫 と 阿漕惣左右衛門 の 二人である。
この二人がどんなにせまっても つれない。
山三郎の彼氏はさぞかし美丈夫であろうと、
皆が想像した。
ところが、 意外! や 意外‼
山三郎の彼氏は
「頭には一筋の黒髪もなく、
歯は皆落ち、入れ歯のハゲタオヤジ」
山藍道可(やまあいどうか)という
六十三歳の男であった。
◇ 言い寄った二人のうち、
山科はあっさりしたもので、
山三郎と山藍が寝る横で
「すましきった了見」で独り寝をした。
ところが阿漕のほうは おさまらず、
美少年の山三郎と山藍が寝るのは
「花の木にふんどし、かけたようなこと」
と二人は怒り、老醜の山藍を
たちまち討ち殺してしまった。
愛するオヤジを殺された
山三郎は仇討ちを決意し、
山科と二人で阿漕を討った。
その首をオヤジの墓前に供えて、
切腹しようとしたが、
そのとき、山科が「早まるな」と止めた。
結局二人は 藩を出奔
山科は 山三郎をやっと手に入れたという。
男、女にかぎらず、
恋愛はどう転ぶかわからない。
たしかにそういうことは
いまの時代でもあるかもしれない。
女にも
いやそれ以上に 男にも
気をつけなければならない。
完
今日一日の人生を大切に!
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