チョウチンアンコウの亭主の悲哀 ②    vol.268

 

◇ 吸いつかれた雌の体の皮が、

    だんだんと伸びてきて、

 

  彼の唇と切っても切れないように

  つながってしまう。

 

ここでめでたく

 

切っても切れない 関係になるのである。

 

 

こうして彼は,

独立した一匹の魚の立場を捨て去って、

 

メスの体の一部になってしまう。

 

 

それから彼の体のなかに、

さまざまの変化が起こり始めるのである。

 

   ホ ォ 〜 〜

 

まず、唇をふさがれてしまったということは

メシを食べることができないということである。

 

そこで

食物をとるすべを失った彼の体の中で、

 

役に立たなくなった消化器官が、

だんだんと消えてなくなる。

 

 

次に、独立した生活のとき必要であったが、

今はこんな状態では必要でなくなった

 

諸器官までがだんだんと姿を消してゆく。

 

 

メスにくっついて移動してゆくからには、

当然眼などは不必要である。

 

で、  眼はすっかりなくなってしまう。

 

 

眼がなければ、もはや脳も

不必要だということになる。

 

すなわち、

脳も退化して姿を消してしまう。

 

    ホ ォ 〜 〜

 

すっかりメスの体の一部となった彼は、

 

その血管がメスの血管とつながり、

 

それを通じて全部メスから養われ、

 

 

あげくの果て、

 

彼はメスの体に不規則に突起した

いぼのような形にまで成り下がってしまう。

 

 そこまで成り下がるのか!!

 

 

いぼ にまで成り下がっては、

彼は自身の存在の意義を失ったように見えるが、

 

ただひとつだけ、  ただひとつだけ

 

器官を体の中に残しているのである。

 

 

それは ....

 

 

それは  精 巣  である。

 

 

ホォ〜 〜  残っていたか あれが。

 

これだけは温存しておったか!

 

 

子孫を残すために大事に残してしていたのだ。

 

 

そして

メスがその卵を海中に産み放すとき、

 

ほとんど精巣だけとなった彼は、

 

全機能を発揮して、(あれしかないけれど)

 

最後の力をふりしぼって

 

その精子を海中に放出する。

 

*男なら彼の気持ちは痛いほどわかるだろう。

 

 

深海であるから流れの動きが

ほとんどないので、

 

その精子は洗い流されることもなく、

メスの卵にうまくくっつくのである。

 

この、この最後の瞬間のことを考えると、

 

トンビは、なにか深い哀しみというか

感動さえ覚えるのである。

 

どういう感動かということは、

うまく言えないけれども。

           完

 

 

 

今日一日の人生を大切に!

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