格差はいづれ反転縮小するディストピアの世界 ①      vol.820

歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は

    話題の書「ホモ・デウス」で、

 

テクノロジーの発展による

ディストピア(反理想郷)のビジョンを

描いて警鐘を鳴らしている。

 

 

人類のごく一部の富裕層が

    人工知能(AI)と

  バイオテクノロジーの力で、

 

   超人類(ホモ・デウス)に

 アップグレードされ、

 

現生人類のまま取り残された

大多数の人々を支配し、

 

最終的には,

 

超人類が現生人類を

淘汰するかもしれないという。

 

ホモ・サピエンスが

  マンモスなどの大型哺乳類を

  絶滅させ、

 

ネアンデルタール人を

自然淘汰したのと同じように、

 

我々も進化の波から脱落して

消え去るのではないか、

 

という警鐘を鳴らしている。

 

自由主義の経済社会についての

ディストピアの物語は、

 

強者と弱者の格差が一方的に広がり、

強者が弱者を淘汰するという

「淘汰の原理」に関連する。

 

HG・ウェルズのSF小説

 「タイム・マシン」が描く

    80万年後の世界では、

 

資本家階級と労働者階級の格差が

著しく広がった結果、

 

人類は2種類の異なる生物に

進化するという、

まさに自然淘汰の力を描いている。

 

この基本構造は「ホモ・デウス」

に受け継がれている。

 

このようなディストピアの

  言説に対する批判は、

 

格差の拡大はいずれ

反転縮小するという

「方向付けられた技術進歩」

の理論である。

 

米マサチューセッツ工科大学(MIT)の

ダロン・アセモグル教授が

主張するように、

 

産業技術の変化は、

希少な生産要素を節約し、

 

豊富な生産要素を多用する方向に進む。

 

例えば19世紀、労働力が豊富で

  土地が希少だった英国では

    労働集約的な技術進歩が起き、

 

その逆の米国では

資本集約的な技術進歩が起きた。

 

AIの進歩などによって、

様々な業種で人間の労働が

無用になると予想され、

職の消失が心配されている。

 

しかしハラリ氏の言う

「無用者階級」

すなわち低賃金の

未熟練労働者が増えれば、

 

その人たちを生産要素として

活用しようとする方向に、

新たな技術進歩が起きる。

 

これが方向付けられた

技術進歩の理論の予想である。

 

すると人間の労働への需要が高まり、

賃金が上昇し、格差が縮小していく。

 

19世紀に極端な格差拡大が

起きたあと、

 

20世紀前半に、

大量生産方式などの

新しい技術進歩によって

中間層が大量に生まれ、

 

格差は縮小して

大衆社会が到来した。

 

同様なことがこれから起きないと

誰が言えようか。

 

強者による弱者の淘汰という

    ディストピアの世界観に対する

  

 もう一つの反論は、

 「可謬(かびゅう)性」

 

すなわち、間違える可能性があること、

に関連する。

 

AIの進歩は必然的に

「すべての存在者は可謬的である」

という認識に立った政治哲学を

もたらすのではないか。

 

近年、驚異的な発展を見せている

    AIのディープラーニング(深層学習)は、

 

 原理的には単純な最小二乗にすぎない。

 *最小二乗:誤差を最小にする
       近似計算の一手法

 

つまり、これまで深淵な神秘と

思われていた知能の働きは、

 

単純な近似計算の寄せ集めに

すぎないという発見が

AIの衝撃の本質である。

 

近似計算なのだから、AIの知は

    無謬(むびゅう=間違いがない)の

    真理ではないし、

 人間の知も同様である。

 

人やAIが作るあらゆる知は

全て現実の近似であり、

 

将来いずれ「間違いであった」

証明される可能性がある、

 

という意味で可謬的なのである。

 

これはAIができる前から

科学的知識について

広く合意されていたことでもある。

 

自己の無謬性の前提に立って

    他者を淘汰するのが、

 

これまでの人間社会や

生物進化の自然淘汰のメカニズムであり、

 

それは多くの社会が

進化の袋小路に陥って

絶滅することを容認する、

いわば非効率な進化であった。  

           つづく

 

 

今日一日の人生を大切に!

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