石田三成の戦略ミス①  vol.1049

「怜悧(れいり)な

       インテリ官僚という

       石田三成のイメージは、

   後世の間違いで、

      武将としての資質を備えていた」

            ――と、

 

中野等・九州大学教授は

こう言い切る。

 

中野教授は

「石田三成伝」(吉川弘文館)で

同時代の史料を徹底的に分析し、

 

「果断にコトを進める剛胆な」

 

 石田三成像を描き出した。

 

三成が出世階段を上る

  きっかけのひとつが、

    賎ケ岳(しずがたけ)の戦いで、

 

    情報将校としての活躍であったことは

 あまり知られていない。

 

◇「関ケ原」で決起してからの

  三成の動きは、クーデターの

  お手本とすらいえる。

 

 最初は豊臣家から

「反乱者」と見なされていたが、

 

1週間後に毛利輝元が

大阪城に入った時は、

 

三成は徳川家康に対して

圧倒的な優位を築いていた。

 

家康はしばらくの間、

忠実だったはずの奉行らが

三成側に寝返り、

 

自分が豊臣政府の最高権力者から

反乱軍の首領に転落していたのを

気付かなかったようだ。

 

その三成がなぜ敗れたのか。

 

中野教授は、

 

「家康の反転攻勢のスピードを

  読み切れなかったことが大きい」

 

 と指摘する。

 

それが兵力の分散を招いた。

 

同教授は、

 

三成ら西軍の戦略は、

支配地を拡大する「面」の戦い、

 

家康の戦略は、

中央突破を軸とする

「線」の戦いだったとみる。

 

西軍は京都・大阪を掌握したのちは

北陸・伊勢・京都北部と戦線を拡大し、

 

どの戦場でも有利に戦いを

進めていった。

 

また毛利軍は、四国、中国地方へも

出兵している。

 

その一方で兵力の分散のため、

三成が担当していた濃尾方面軍は

手薄になった。

 

その戦略ミスが現実化したのが

岐阜城の失陥であった。

 

岐阜城攻防戦では

  兵力差が東軍約35千に対し、

 

 西軍は約6千と

 大きな差がついていた。

 

  岐阜城主の織田秀信は

  祖父・信長の例にならって

  野戦を仕掛けるが完敗。

 

岐阜城も約半日で陥落してしまう。

 

岐阜城はいわば織田家の聖地で、

大きな意味を持っていた。

 

もし秀信が籠城策をとれば

東軍の福島正則、池田輝政ら、

 

かつての織田家の臣下は

攻めなかった可能性もある。

 

それまでの西軍有利の流れを

変えたダメージは大きく、

 

大阪城の西軍首脳にまで

動揺が広がったという。

 

実際、京極高次は、

 西軍から離脱し約3千で

 本拠地の大津城に立てこもった。

 

同城は915日に陥落するが、

その日がちょうど関ケ原合戦の当日。

 

攻城側の西軍15千の将兵は

決戦に間に合わなかった。

 

情報戦の面でも三成は

大きく後れを取っていたのである。

 

家康は反徳川で同盟した

    東北の上杉景勝軍と、

 

 三成ら西軍主力との

    情報ルートを遮断していた。

 

三成は、中間地点の上田城で戦う

西軍の真田昌幸に何通も書状を送り、

 

上杉軍と連絡してくれるよう

依頼している。

 

その真田宛の書状もいくつかは

家康の手にわたっていたという。

 

岐阜城陥落を知った家康は

江戸から最前線へ急行したが、

 

三成はその具体的な動きを

把握していなかったフシがある。

 

一方、家康は秀頼の不出馬など

大阪城の動きを確認できていたようだ。

 

その時、東西両軍に

保険をかけていた武将は大勢いた。

 

その状況を積極的に活用したのは

家康だった。

 

本来ならば戦場での戦闘より

    情報戦こそが三成の

  得意分野だった。

 

その三成が決起直後に、

自らを 豊臣政府軍

家康を 反乱軍 と、

見なされたことで油断が生じた。

 

油断が兵力の分散や

情報戦の軽視を招いた。

 

秀頼を擁立している自分らに

積極的に攻めかかってくることは

あるまいと考えていた。

 

家康はその隙をついた。

 

さらに家康は秀吉死去前後から

多数派工作を行っていた。

 

「反乱軍」になっても家康に従う

強い意志を持った武将が少なくなかった。

                    つづく

 

 

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