◇ リンチ氏のグループは、
ゾウさんと小型哺乳類を対象に、
他の遺伝子の違いについても調査を行った。
特に注目したのは、複製が多い遺伝子だ。
その結果、浮かび上がってきたのが、
生殖能力を高める働きのある
「LIF遺伝子」の1つ、LIF6 だった。
しかし、リンチ氏はLIF6には別の機能、
つまり傷ついた細胞を殺す役割が
あるのではないかと考えた。
小さなウサギから巨大なクジラまで、
ほとんどの哺乳類には
LIF遺伝子が1組しかない。
しかし、ゾウさんには
たくさんのLIF遺伝子がある。
そして、これまでのところ、
LIF6はゾウさんからしか見つかっていない。
◇ 今回の研究によれば、
LIF6がゾウさんの遺伝子に登場したのは、
約5900万年前だという。
最初、これは役立たずの
壊れた遺伝子でしかなかったようだ。
しかし、ゾウさんの先祖が
進化するにつれて、
この遺伝子も進化し、
やがてゾンビのように蘇った。
ゾウさんがガンに悩まされない
大きな体を手にすることができたのも、
この復活のおかげかもしれない。
◇ P53が遺伝子の診断を行う
医者だとすれば、
LIF6は、傷ついた細胞を抹殺する
いわば 殺し屋だ。
リンチ氏のグループは、研究室で
ゾウさんの細胞のDNAを破損して、
LIF6遺伝子の機能を調査した。
その結果、
破損を見つけたP53が
LIF6遺伝子を作動させ、
LIF6が破損した細胞を殺したと
考えられる現象が観察された。
◇リンチ氏は、ガンを防いでいるのは、
このゾンビ遺伝子だけというわけではなく、
「LIF6は、もっと大きな仕組みの中で
小さな役割を果たしているにすぎない」
と言う。
なるほど、
これからさらに重大な発見がされる
可能性を秘めているということになる。
◇ ゾウさんのガン予防機能を
研究する究極の目的は、
人間のガン治療への応用だ。
LIF6の進化については、
5900万年の進化が必要であった。
5900万年をかけて、
自然がガンを予防する最善の方法を
見つけようとしている。
つまり研究者たちは、
その自然の叡智に触れることで、
人間のガンを克服するその方法を
見出そうとしているのである。 完
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