めざしの土光さん ①    vol.309

 

◇ 戦後日本の復興を担った経済人で、

 「本物のリーダ」として敬愛される人物、

 土光敏夫さんという人がいた。

 

50歳以上の方はご存知の方も

多いと思います。

 

生活が大変質素なため

「めざしの土光さん」

と親しまれていた。

 

その土光さんが、時の権力者、

田中角栄と対峙した場面がある。

 

立花隆氏が田中角栄の

金権政治を告発する

「田中角栄研究」を文藝春秋に発表。

 

世間は騒然とした。 

 

1974年10月のことだ。

 

◇ 当時経団連の会長を務めていた土光は、

    その記事を読むと総理官邸へと向かった。

 

「総理、今日はあなたに

       赤いちゃんちゃんこを着けにきた」

 

財界総理の土光が、

政界総理の田中角栄の眼をじっとにらむ。

 

「あなたは今日から

 石の地蔵さんになってほしい。

 

 石の地蔵さんは頭を丸めて

 赤いちゃんちゃんこを着ている。

 

 ボクがあなたに赤いちゃんちゃんこを

  着せるのだ」

 

「土光会長、いったいなんの話ですか」

 

田中は、例のだみ声で土光に聞いた。

 

土光の眼鏡の奥から、

禅宗の名僧が喝を入れるよな

鋭い眼差しで、田中をにらんだ。

 

「文藝春秋の記事を読んだら、

    一晩、眠れなかった。

 このさい、総理、頭を丸めてはいかがなものか」

 

田中はむっと押し黙った。

 

だが、土光の視線は田中の眼を射ったままだった。

 

しばらくして、田中の口が開く。

 

「土光会長、ご心配をいただき大変申し訳ない。

 あの記事は、うわさ話をまとめたもので

 正しくない。

 しばらくすれば、おさまりますよ」

 

田中は、自分の進退について

一言も言及しなかった。

 

◇ 土光は自問自答した。

 

「田中内閣はこれで終わりだな。

   しかし田中はまだ若い。

 

 目白の豪邸をどこかに寄付して、

 さっさと引き払ってしまえ。

 

 そして頭を丸めて禅寺でも籠もるが良い。

 

 5年か10年すれば再び檜舞台に

 引っ張り出される日が必ず来る。」

 

正義感を振りかざすのではなく、

相手の人生を考える懐の深さ。

 

厳格さと温情の絶妙なる共存。

 

ここが土光さんの

人間的な魅力なのかもしれない。

                                     つづく

 

今日一日の人生を大切に!

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