◇ チョウチンアンコウという魚がいる。
アンコウの一種である。
深い海の底の真っ暗なところに住んでいる。
真っ暗なところを泳いでいくので
この魚は提灯を持っている。
すなわち頭のさきから
長い鞭のようなものが生えていて、
それが光を放つのである。
◇ 先日、テレビを見ていたら
Red Bull の CM が始まり、
そこに偶然にもチョウチンアンコウの
アニメの映像が映し出された。
そしてそのチョウチンアンコウが
低い男性の声 で
「暇だなあ〜」 と つぶやいたのだ。
アレ〜? アレ〜?
電通か博報堂か、知らないけれど、
このCMは致命的なミスを犯していることを
トンビは見逃さなかった。
そもそも提灯を持っている
デカイ図体の魚、
あれは メス なのである。
あまりにもグロテスクで、
間違えるのも無理ないが、
これが人間だったら「性別詐称」で
訴えられるかもしれない。
このCMを見ながら、
チョウチンアンコウについて
ふと、むかしの記憶が甦ってきた。
かれこれ10年以上まえに読んだ
本に書いてあったことだ。
なんでかわからないが、
最近、むかしのことをよく思い出す。
本のタイトルは完全に忘れたが、
あまりにも哀れな内容だったので
いまでも鮮明に覚えている。
◇ アンコウの提灯はもちろん
自分の泳ぐ道を照らすためにあるが、
同時に餌となる小動物をおびき寄せる
手段にもなっている。
ただし、 オスは提灯を持たない。
大きさもメスの十分の一である。
メスは 40㎝ぐらいだが、オスはたったの 4㎝。
あの提灯をぶらさげた壮大なメス魚の、
亭主にあたる魚とはとても思えない。
このメスに対して、この小さな平凡なオスが
どういう具合で亭主たる存在になるのかというと、
彼は、ただじっとその機会を
待っているだけなのである。
そして偶然に雌が自分に近づいてくると、
このチャンスを絶対に逃さないというばかりに、
彼は雌の背中であろうが、
頭であろうが、腹であろうが、
ところかまわずにいきなり唇で
吸いつくのである。
吸いついたら、それきりである。
どんなことがあっても離れない。
メスが泳ぐままに、ぶら下がって動く。
そしてここで
世にも変わったことが起こるのである。
つづく
今日一日の人生を大切に!
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