◇ カルロス・ゴーン日産元会長の
突然の逮捕で、世界に衝撃が走った。
ただ本人はグレッグ・ケリー氏と共に
本件は合法であると容疑を否認しているが、
東京地検特捜部は今月10日、
金融商品取引法違反の罪で、
ゴーン容疑者と前代表取締役
グレゴリー・ケリー容疑者、
法人としての日産を起訴した。
海外の報道では
日本の司法制度への批判が目立つ。
違法性の判断はもちろん重要だ。
しかしながら偉業を成し遂げた
人物であるからこそ、
権利だけ主張するのではなく、
義務を負う覚悟を
高く掲げる必要があるのではなかろうか。
◇ 「日本の資本主義の父」と呼ばれる
渋沢栄一の思想である『論語と算盤』
という1916年に出版された講演集の中に、
「算盤と権利」という章がある。
「算盤と権利」とは、
まさに資本主義を象徴する言葉であり、
株主として、あるいは経営者としての
権利を主張し、利益(算盤)を獲得する
行為のことである。
◇ その「算盤と権利」の章に
「合理的の経営」という項目がある。
ここで示す「合理的」は
ゴーン氏の得意な目的に向かって
無駄なく効率的に行われる経営ではなく、
「理」に「合う」経営を
指していると考えられる。
渋沢栄一が提唱している
「合理的な経営」とは、
「理屈」や「理論」に合うことに
留まることなく、
「道理」や「倫理」に合うことも含まれている。
◇「現代における事業界の傾向を見るに、
悪徳重役なる者が出でて、
多数株主より委託された資産を、
あたかも自己専有のもののごとく心得、
これを自ままに運用して
私利を営まんとする者がある」
「それがため、会社の内部は
一つの伏魔殿として化し去り、
公私の区別もなく秘密的行動が
盛んに行なわれようになって行く」
「真に事業界のために
痛嘆すべき現象ではあるまいか」
「現在あるものを無いといい
無いものをあるというような
純然たる嘘をつくのは断じてよろしくない」
◇ 有価証券報告書という
上場企業の信用の要となる公開資料に、
報酬の先送りで実態よりも
少ない金額を記載するということは、
あるものを無いということであり、
「純然たる嘘」は言いすぎかもしれないが、
偉業を成した経営トップだからこそ、
「断じてよくない」行いに間違いはない。
ベンチャー子会社を設立し、
私的利用目的で高級住宅などに
約20億円を投じさせたとのこと。
渋沢栄一が痛嘆した
「公私区別がない秘密的な行動」
との指摘の通り、弁解の余地はない。
◇ ルノーとの経営統合を阻止する
日産側が反旗を掲げたという
陰謀説も噂されているが、
そのような大型経営統合を
推進するならなおのこと、
指揮を取る経営トップの人格が
問われるべきは当然のことだ。
◇ 「合理的の経営」において渋沢栄一は
重役として適任ではない
3つのタイプを指摘している。
1.取締役監査役の名を買いたい重役
2. 好人物だけれども事業経営の手腕がない重役
3. 会社を利用して自己の栄達を計り、
踏み台にしようと利慾を図る機関
にしようと考える重役
◇ 1.のタイプと比べると
2.のタイプは罪が重いと栄一は考えた。
日本企業では少なくない
タイプの経営者かもしれない。
ただ、故意に悪事を働いたわけではないので、
3.の罪が最も重いと渋沢栄一は指摘する。
◇ 実際にあった報酬がないように
みせかける虚偽の記載を要請したならば、
また他の事業に払い込んだように装って
個人的な利益のために着服したならば、
ゴーン氏は明らかにこのタイプの重役になる。
◇ フランスでは「日本人は恩知らず」
という報道もあるようだが、
日産はフランスの国有企業ではなく、
あくまでもグローバルな上場会社だ。
グローバル企業であるからこそ、
相応しい経営トップの人格が
厳しく問われるべきだ。
◇ 株式市場に突き放された倒産寸前の
日産をリスクを負って救済したのだから、
再生後の利益(算盤)について
権利があるというのは真っ当な主張だと思う。
しかし日産はパブリック・カンパニーであり、
利益を吸い取る「植民地」的な存在ではない。
ルノー・日産、そして、三菱自動車の
グローバル・アライアンスの結束力を
高めるという意味においても、
今後のガバナンス強化が不可欠となるだろう。
◇ 今回の不正事件は株主、顧客のみならず、
日産の価値創造を支える社員への
裏切り行為にも値する。
「合理的な経営」により、
日産の失った信頼回復が急務となる。
今日一日の人生を大切に!
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