西東三鬼の俳句 vol.330

 

広島や 卵食ふ時 口ひらく

 

 ◇ 西東三鬼の句である。

 

西東 三鬼(さいとう さんき)

岡山県出身の俳人。

 

医師として勤める傍ら30代で俳句をはじめ、

伝統俳句から離れたモダンな感性を持つ俳句で

新興俳句運動の中心人物の一人として活躍。

 

原爆投下の翌年の1946年に

広島市を訪ねて詠んだ句である。

 

原爆被害に関する報道や、反米的な表現に

神経をとがらせていた当時の占領当局は

俳句雑誌を検閲していた。

 

そして広島を題材にした三鬼の連作の

いくつかを削除するように命じた。

 

広島の惨状を目の当たりにした三鬼は、

言葉をのみ込み、ただ沈黙するしかなかった。

 

だが、長い沈黙のあと ようやく口を開いた。

 

それは語るためではなかった。

 

1個のゆで卵を食べるために

 

この句の迫真性を共有、

もしくは想像できる日本人は

もはや少数派かもしれない。

 

他に次のような句がある。

 

・おそるべき君等の乳房夏来(きた)る  

 ・中年や遠くみのれる夜の桃    

 ・露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す

・頭悪き日やげんげ田に牛暴れ

                                   西東三鬼

 

 

今日一日の人生を大切に!

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