◇「お天気博士」の倉嶋厚氏は、
中学生の夏、虫捕り網を買った。
日中戦争がはじまった頃である。
父親が竿に住所氏名を
墨で書いてくれた。
大宇宙銀河系太陽系地球亜細亜州
大日本帝国中部地方長野県
上水内長野市西長野町 倉嶋厚
一寸之虫五分之魂
◇ 父親はつぶやいた。
「虫には太郎や花子という
名前がないからなァ」
「お前が捕るカブトムシが
厚という名前なら、厚は死ぬんだ。
その後もカブトムシは
いくらでもいるが、
それは厚ではなく、違う名前の虫だ。
カブトムシは残っているじゃないか、
と人は考える。
集団に名前があっても、
個人に名前がなければ、
そういうことになる・・・・」
◇ 「犠牲者」「被災者」
という集団には、
それぞれに、
「大宇宙」で、ただ一つきりの
名前があり、人生があった。
そのことを心に留めてもらうだけでも、
父親のつぶやきの意味は大きい、と
倉嶋厚氏は言った。
今日一日の人生を大切に!
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