◇1848年1月24日、
男はカミソリで足の大動脈を切って
自殺した。
場所はニューヨークの刑務所。
通行人に硫酸を浴びせたとして
逮捕・収監されていた。
男の名前はホレス・ウェルズ。
33歳の若さで自ら命を絶ったウェルズこそ、
人類を痛みから解放し、
医学に革命的な進歩をもたらした人物だ。
ウェルズは「麻酔の発見者」だった。
◇ 麻酔が発見されるまで、
外科の手術室は阿鼻叫喚の現場だった。
患者を手術台に縛りつけ、
意識のある状態でメスを入れたり、
ノコギリで手足を切断したりした。
激しい痛みに絶叫し、
手術を受けるくらいなら
死んだ方がましと、
逃亡を試みる患者が続出した。
外科医も落ち着いて手術することなどできず、
手術の技術も精度もなかなか向上しなかった。
トンビも幼少の頃、
転んで膝がパックリ割れる
大怪我をした。
その際、担ぎ込まれたのが近所の内科医で、
麻酔無しで10針縫われた経験があり、
その時の激痛は今でも忘れることはできない。
◇こうした状況を劇的に変えたのが
麻酔の発見だった。
それ以来、麻酔をかけることで、
患者は痛みに苦しむことなく
手術を受けられるようになった。
患者を安定した状態に保ち、
十分な時間がかけられることで、
外科の医療技術は飛躍的な進歩を見せた。
医学に革命を起こしたウェルズは、
大きな賛辞を受けて当然だったが、
現実は全く異なっていた。
深い絶望のなか、
自ら死を選ぶことになったのだ。
◇ ウェルズをそこまで追い詰めたのは、
ウィリアム・モートンという男だった。
この男の策略によって、
ウェルズは名誉も仕事も失い、
悲惨な死を遂げることになる。
ところが、モートン自身も
不遇の最期を遂げた。
◇ ニューヨーク・ポストは、
「ボストンの麻酔の発見者である
モートン教授。
110丁目と6番街の角で
意識不明のところを発見され、
聖ルカ病院に運ばれる途中で死亡」
という記事を伝えた。
1868年、モートンも48歳でこの世を去った。
◇ だが、そもそも麻酔の発見者は
モートンでなく、
ウェルズではなかったのか。
モートンはウェルズに、
どんな策略を仕掛けたのか。
麻酔を発見したという二人の男は、
なぜ二人揃って哀しい最期を
迎えることになってしまったのだろうか。
つづく
今日一日の人生を大切に!
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