◇ 中国人の死生観を知るのにもう1つ、
興味深いデータがある。
それは、中国人の火葬率が
一向に上がってこないということ。
中国の葬儀事情を書いた、
『中国嬪葬事業発展報告』という本がある。
これによると、
1949年の中華人民共和国成立後、
2度に渡って火葬の比率が下がるという
「火葬の危機」があったのだという。
1度目は、文化大革命が終わり、
鄧小平氏が最高実力者として「改革・開放」の
中国の舵取りをし始めた 1978年 直後のこと。
中国政府は1956年に火葬を奨励するが、
1978年に 30% だった火葬率は、
1982年に 18% まで急落してしまう。
そして2度目は 2006年。
前年の2005年に53%まで上がった火葬率は、
翌 2006年に48%と5割を割り込み、
2011年まで 48~49% をうろうろした。
『中国嬪葬事業発展報告』は
2012年発行なので2011年までの
データしかないが、
民政部の最新の統計によると、
火葬率100%を目標に掲げたにもかかわらず、
2006年以降、一度も5割を回復せずに
今日に至っているようだ。
◇ 同書は火葬率が低下した原因について、
1978~82年にかけての1回目は、
火葬を奨励したのが文化大革命を主導した
「四人組」を中心とする極左だった
との見方が広がり、
極左に対する反発から火葬を避ける動きが
拡大したと分析している。
これに対して2006年以降の2回目については、
当時、中国のトップだった胡錦濤総書記が打ち出した
「以人為本」(人をもって本と成す)
すなわち共産党よりも国よりも
経済発展よりも「人間を第一とする」考え方を、
「自分本位で科学的根拠など
無視してやればいいのだ」
というように都合よく解釈する
人間が増えたことが、
火葬率の低下につながったのだという。
つまり衛生面や用地の有効活用など
「科学的根拠」に基づいて
共産党や国が火葬を奨励しているにもかかわらず、
「人間第一なのだから、
自分の感情を優先すればいい。
それならば身体が灰になってしまう火葬はイヤだ」
ということになったという。
こうして火葬が減り、土葬が増えた。
身体が生きている時と同様、
「全く無傷」のまま土に還れる「全身而退」という
中国の伝統思想の復活が進んだのだと同書は説明する。
ここにも、死んでからも生きている時と
同様の状態でいたいという、
「命あっての物種」に通じる、
中国の死生観を垣間見ることができる。
◇ 先の『中国嬪葬事業発展報告』が、
「死生観とはなんぞや?」 を
説明するくだりで引用しているのは、
村上春樹の『ノルウェイの森』の一節だ。
これは大変興味深い。
「死は生の対極にあるのではなく、
我々の生のうちにひそんでいるのだ。
我々は生きることによって同時に死を育んでいるのだ。
直子の死が僕に教えたのは、こういうことだった。」
(講談社文庫版、上巻)
村上春樹が中国で熱狂的に受け入れられるのは、
全く無傷のまま土に還れる「全身而退」に
通じる死生観を村上の文学に感じる
ということもあるのだろう。
今回の事件の論議について
「それはその人の死生観なのだから」
と言われればそれまでだが、
「命あっての物種、死んだらオシマイ」
という意識が、
日本人より強いのは間違いないようだ。
完
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