◇ 素敵なバーに、
18歳になったばかりの倅を連れて、
フランク・シナトラがやってきた。
「今日からお前を大人として
扱ってやるから、
タキシードを着てバーに来たんだ」
そういうわけで、シナトラは、
馴染みのバーカウンターに倅と座った。
◇「タリスカーのストレートと水を、
別々のグラスにして頼む」
シナトラは言った。
怪訝な顔をしているバーマンを尻目に、
彼はポケットからビニール袋を取り出した。
袋にはミズスマシが一匹入っていて、
それを彼はまず水のグラスに入れた。
ミズスマシは元気よく、
スイスイと泳ぎ出した。
倅はただ呆然として見ている。
するとシナトラは自ら
ミズスマシをつまみ上げ、
今度はタリスカーの
たっぷり入ったグラスに放り込んだ。
ミズスマシはたちまち痙攣し、
動かなくなってしまった。
その瞬間、
シナトラは倅の目を見つめながら、
厳かな声で言った。
息子よ。いいか、大人になると
いろんな虫が腹にわくものだ。
世の中、気に入ったやつばかりじゃない。
嫌なやつと仕事をすることもあるし、
思うように仕事がいかなくなったり、
好きな女に振られたりもする。
これも虫のせいだ。
そういう時、酒を飲めば
虫をイチコロで殺してくれるんだ。
これは人生にとって最も重要なことだ。
よく覚えておけよ。
「はい、パパ」
そして、ようやくバーマンのほうへ
振り向いてこう言った。
「じゃあ、いつものタリスカー、
スパイシー・ハイボールを
ワンパイントを二つ頼む」
まさにバーカウンターは
人生の勉強机なのである。
<今日の名言>
男と女は誤解して愛し合い、
理解して別れる。
島地勝彦
今日一日の人生を大切に!
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