◇ 菊池寛の『形』という小説を
読んだことがある。
ものの数分で読める。
ページ数にすると文庫本で
4ページほどの短編小説ではあるが、
不思議な読後感の残る小説である。
<菊池寛 形>
この本にはほかに秀逸な短編が多数あり、
ぜひ購入して読んでもらいたいが、
読むのも面倒な方向けに、
あらすじを紹介する。
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◇ 中村新兵衛は、槍の達人で、
身につけている陣羽織と兜を見ただけで
敵が恐れおののくほどであった。
新兵衛は、初陣に出る若武者から
その陣羽織と兜を貸してもらえないかと
頼まれる。
新兵衛はその頼みを
こころよく受け入れる。
翌日の戦いで、新兵衛から借りた
陣羽織と兜を身につけた若武者は、
戦さで大きな手柄を立てる。
しかし、新兵衛自身は
いつもと違う「形」をしていたため、
敵も勝手が違っていた。
敵は、相手がいつもと違う服装をしているため
中村新兵衛とは思わず、怖じ気づくことなく、
十二分の力を発揮したのである。
新兵衛はいつも以上に
奮闘したにもかかわらず、
槍で突かれ、命を落としてしまう。
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といった内容の小説だ。
◇ この小説は『形』という
タイトルである。
「形」は単なる外観だが
【形は大事】
あるいはむしろ
【形こそが重要】
という意味がタイトルに含まれている。
ある人が、一生懸命努力し、
高い能力をつけ、結果を出したとしても、
その結果を目に見える【形】に
変えておかないと、
他の人にとっては、
その人がどれだけの力を持ち、
どれだけの成果を残して人なのか、
初見で認識することはできないのである。
◇ この小説の主人公である
中村新兵衛にとっては
「猩々緋の陣羽織」
(しょうじょうひのじんばおり)
という衣装の「形」が彼の形であり、
そしてそれが敵に対する威圧感の源となり、
そこから生まれる雰囲気、イメージ、
空気の力やオーラを借りて、
戦いの場において大いに勇を
奮うことができたのである。
不幸なことに、
当人がその事実に気づいたのは、
絶命する直前だったわけだ。
◇この話を
「遠い戦国の世の話」
もしくは
「小説の中の話」
と捉えるのではなく、
「今に生きる私たち」
に引き当てて考えてみてはどうだろうか。
◇中村新兵衛は
「猩々緋の陣羽織」
の力によって周囲を圧し、
その力を借りて相手を倒してきた。
今に生きる私たちはもちろん、
他者を威圧する必要もなく、
倒す必要もないが、
それでも
「ビジネス界」
という厳しい戦場で日々戦っている。
そんな戦場(=営業や交渉の現場)においても
【形】 もしくは 【ブランド】
を持たなければ、
せっかく磨いてきた能力、
築いてきた実績を、
他者から認識してもらうことができない。
本来の自分の能力や実績を見せられず、
成果を残せないとすれば、
それはあまりにもったいない。
だからこそ
【形】は意識して作るべきであり、
そして作った
【形】や【ブランド】 を見せるべき、
そんな解釈もできるのではなかろうか。
我々は得てして中身が大事と考えがちだが、
意外と外見も大事なのである。
ちなみにトンビの「猩々緋の陣羽織」は、
まだまだ未完成だ。
死ぬまでには「形」あるものにしたい。
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