◇ ロッキード事件で東京拘置所から
保釈されたばかりの角栄。
しかし、そんなことは
おかまいなしとばかり、
目白の私邸には連日、
新潟の地元からバスで陳情客が
やってくる。
だが、日銀総裁が来たとしても、
田舎のばあさんでも決して態度を
変えないのが角栄の流儀である。
◇ あるとき、書生が1人の老婆を
角栄のもとに連れてきた。
頼みごとがあって
新潟からやってきたという。
「おいっ 角!」
ばあさんがいきなり角栄を
呼び捨てにした。
しかし角栄は動じない。
おらんとこの伜が悪い女に
騙されて家を出ちまった。
かかあとガキが泣いて困っている。
お前、警察の親方に頼んで
おらの伜をめっけて連れ戻してくれ !
横で見ていた秘書の早坂茂三が、
自分勝手な陳情を続けるばあさんを
思わず叱責しようとした。
しかし角栄はそれを制して言う。
警察庁長官を電話口に呼べ !
もしもし田中です。元気かね。
ちょっと悪いがメモしてくれ。
名前は○○で、住所は○○○。
すまんが探してくれ。
乱暴せずに家に連れ戻すんだ。
いつも悪いな
ばあさんが角栄に言った。
角、めっかるか ?
おそらくな。
そのうちいい便りをしてやるから。
じゃ、オラは帰る。
角、 元気でな。
ばっちゃん、達者で暮らせ。
◇ 角栄は決して選挙運動のために
ばあさんの陳情を受け付けた
わけではなかった。
弱い立場の人間に頼まれれば
どうしても「ノー」とは言えない性格。
それは角栄の最大の長所でもあり、
ときに欠点にもなった。
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