◇ 武者小路実篤は、
大正・昭和の小説家である。
お公家の子孫だから、
子どもの頃は学習院に通った。
成績は悪かった。
当時の学習院の卒業式は残酷であった。
成績の悪い者から順番に
式場に入る決まりになっていた。
そういうわけで先頭を
歩かされる劣等生はたまらない。
世間体が悪いから、
卒業式の日は仮病をつかって休んだ。
実篤の成績はビリから四番目で
成績の悪い子は、卒業式を休むから
あやうく先頭を歩かされそうになったという。
ただ実篤には卑屈なところが
みじんもなかった。
それには秘密があった。
◇ 実篤は2歳のとき父親を亡くしている。
病気のため 長い間、床に伏せていた。
実篤の兄は、生まれつき優等生。
病気の父の枕元を静かに歩いた。
だが実篤は暴れん坊で、ドタバタ歩いた。
母が静かに歩くように注意すると、
父は言った。
「元気に歩いているのを喜んでいるのだ」
「しかるな ! 」
実篤は、この父の言葉を母から
聞かされて育った。
時々思い出しては、父の愛を感じたという。
◇ また父は死ぬ直前、実篤を抱き
「この子はよく教育してくれる人がいたら、
世界にひとりという人間になるだろう」
と言った。
この言葉ほど、
実篤を勇気づけたものはなかった。
成績で人間は測れない。
自分は世界でたった一人の人間になろう。
実篤は一生涯、
父の言葉を胸に刻んで生きてきた。
幼いころに言われた言葉が、
その後の人生を決めることは、よくある。
そうして小説家・武者小路実篤が誕生した。
人間の目線が温かい彼の作品が
トンビは好きである。
<今日の名言>
この道より我を生かす道はなし、
この道を行く。
君は君 我は我也 されど仲よき
自分を信じて行かなければいけない。
教わるものは遠慮なく教わるがいいが、
自分の頭と眼だけは
自分のものにしておかなければいけない。
ー武者小路実篤ー
*今日一日の人生を大切に!