母よ

 

タニシにように苦い泥をのんで

黙りこくっている

歴代百姓の系列の肉親の

 

突然変異の特別柔弱であった

そのためだけに

 

子守も下男も田植えもできなかった

そのためだけに

 

あなたの長崎よりも

はるかに遠いパリなんぞに

さまよっている

 

母よ

 

わたしはノートルダム寺院の

住職になんぞなりたくはない

 

ノートルダム寺院を打ちこわして

売りさばく古銅鉄仲買商人に

なってやりたいのです

 

母よ

 

そのわたしが最後まで

打ちこわさないでおくものを

知っていますか

 

ながびさしにかかる

雨水おとしのガルグイーユの

 

あのお化けみずから

呑んだものでないものばかりを

吐きだしているあのお化け

 

あいつをゆっくり

たたきこわしてやりたいのです

 

あいつ自身の身体のなかに

しみこんでいる

 

あいつ自身でないものの沈殿した泥を

ゆっくりと腑分けしてやりたいのです

 

母よ

 

あなた自身の誰も知らせてくれない

自身の生活が

 

素通りして流れ落ちるために作られた

わたしというお化けを

 

ゆっくりたたきこわして

やりたいのです

 

 

この詩で中心となるのは

  母親の「来歴」だが、

 

「母」という言葉は

後半に入らないと出てこないので、

詩全体を読まないとわからない。

 

「来歴」というタイトルが

つけられてはいるが、

 

この詩でいちばん強調されているのは、

まさに来歴の欠如である。

 

泥をのんで黙り続ける母の人生は

壮絶そのものである。

 

そしてそのような寡黙な人生から

聞こえてくる声を語ってしまう

「宗左近」という詩人も、

 

まさに卓絶そのものである。

 

 

今日一日の人生を大切に!

トンビ博士

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