◇ だが、
本当に年金は大丈夫なのか?
今夏、ある試算が示された。
2051年には国民年金の積立金、
55年には厚生年金の積立金が
枯渇する可能性がある──。
西沢和彦氏と
(日本総合研究所主席研究員)
中田大悟氏が示したものだ。
(創価大学准教授)
◇ 100年先はおろか、
50年も持たない。
なぜ、ここまで差が出るのか。
まず、政府が試算の前提とする
経済状況が実態から
乖離していることが大きい。
物価上昇率や賃金上昇率、
積立金の運用利回りなどが
政府試算は楽観的なのだ。
現実的な経済環境を踏まえれば、
積立金の取り崩しペースはもっと速い。
政府がそもそも「100年後も安心」
と唱える裏には、
給付額を抑制する仕組みを
導入していることがある。
「マクロ経済スライド」と呼ぶもので、
04年の年金改革時に取り入れられた。
それまでは前年の賃金や
物価上昇率に応じて
年金額を改定してきたが、
04年改革以後は、
そこから労働力人口の増減や、
平均余命の伸びを基に決めた
1~2%程度の抑制分を
差し引いて給付額を決める方法にした。
◇ 例えば、前年の賃金上昇率が
0.5%で、スライド調整率が1%なら、
差し引き0.5%のマイナス。
給付額もこの分減る。
こうすれば、年金受給者が増えても
給付額の膨張を抑えられ、
積立金を取り崩すペースも遅くなる。
結果、
100年後も積立金が
枯渇することはない、
というのが政府の見立てだ。
◇ ところが、給付抑制策には
ある縛りがかけられている。
前年度の名目給付額を
下回らないようにする
「名目下限措置」だ。
上記のようなケースでは
給付額は前年と同じになる。
だが、デフレ環境下で賃金上昇率が
ずっと抑えられてきたため、
マクロ経済スライドは
実際には15年の1回しか機能していない。
この結果、年金給付額は
当初想定よりも“過払い”になっており、
その分、積立金を減らしている。
前述の西沢氏と中田氏の試算は
「名目下限措置」を残したまま、
現実的な数値に基づいて試算している。
その結果、予測される
50年代前半での積立金の枯渇。
その後は文字通り、
悲惨な状況が待ち受ける。
つづく
今日一日の人生を大切に!