◇ 著者の國廣正氏は、
数多くの大型企業不祥事の
危機管理に関わってきた人物。
東京海上日動火災保険、
LINEで社外取締役、
三菱商事、オムロンで
社外監査役を務めており、
2018年の日本経済新聞社
「企業が選ぶ弁護士ランキング」では、
「危機管理分野」で第1位にランクされる、
この分野の第一人者である。
◇「自分の会社はどうありたいか」
という「ものがたり」を語る力が、
コンプライアンスの本質だ、
と著者は言う。
コンプライアンスの基盤となるのは
社員の誇り・プライドだということになる。
そして、社員に誇り・プライドを
もたらすものは,
「自分はなぜこの会社で
働いているのか」
というストーリーだ。
◇ 本書の面白いところは、
企業やそこで働く人に
前向きな気持ちを与える
ストーリーとしてのコンプライアンスを
提唱しているところだ。
本書には、企業不祥事への対応に
失敗した企業と成功した企業の事例が
対照的に紹介されている。
企業として何が大事か、
どうすれば働く人が誇りに
思える企業ができるのか、
そのヒントが掴める。
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会社の種類はいろいろだ。
だから、それぞれの会社が、
その会社の事業の特性から見て
どのようなリスクがあり、
そのリスクをどう予防するのが
効果的かを考えて制度を設計し、
それに抜けがないかを法律を参照して
チェックするというのが本来のやり方だ。
一人一人の社員の立場から見たとき、
コンプライアンスというものが
「なぜ、私たちはこの企業で働いているのか、
何をやりたいのか」
ということとは無関係の「やらされ感」を
もたらすものに過ぎなかったということだ。
つまり、コンプライアンスと
社員にとっての働く意義とが
分断されていた点が大きな問題点である。
「自分たちのビジネスモデルが
時代にそぐわないものに
なっているのに気づきが遅れた。
だから、方向転換して出直そう」
という具体的な「ものがたり」、
ストーリーに基づく実践が
本物のコンプライアンスなのだろう。
現場については「性善説か性悪説か」
という二者択一の発想ではなく、
人は弱いもので周囲に同調してしまうという
「性弱説」で理解しなければならない。
この状況を一言でいえば、
「いい物を作れば売れる」という
メーカー主導の時代から、
「売れるものがいい物だ」という
消費者主導の時代への変化
ということができる。
このような時代の
「品質」に対する信頼は、
もはや「職人芸」に対する
盲目的な信頼といったものではない。
デジタルに(=数字で)
「見える化」されたものに対する信頼、
つまり誰が見ても分かる
客観性を持ったデータに対する信頼なのだ。
検査データの分布を
常時解析しておくことも有益だ。
これにより正規分布とならない
異常データをキャッチすることで、
改ざんされたデータ群を発見することも
可能になる不祥事を防ぐための
キーワードがある。
それは組織の中に女性、外国人、
中途採用者といった「異分子」を
取り込むということだ。
主流の親会社よりも
むしろ非主流・傍流の子会社のほうが、
不祥事リスクが大きい。
ステークホルダーは、
「言行一致か」 「誠実か」
「間違いを犯した場合、真摯に現実に
向き合って改善に取り組んでいるか」
というインテグリティの観点から
企業を評価する健全で風通しの良い
企業風土が醸成されていれば、
コンプライアンス問題は発生しにくい。
逆に、収益至上主義や
権威主義の傾向が強ければ、
不祥事につながりやすい。
自然災害であっても不祥事であっても、
危機管理の本質は変わらない。
それは正確な状況把握、明確な決断、
そしてブレることのない断固とした
対応という三点だ
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◇ 本書を読めば、
これまでつまらなかった
コンプライアンスが、
会社を前に押し進める
原動力となることに気づく。
人間は究極、金のために働くのではなく、
存在理由や誇りのために働いている。
社員が誇りに思える会社を作るために、
すべての経営者、
仕事人に読んでほしい一冊だ。
今日一日の人生を大切に!