◇ 黒川氏が昨年1月、
東京高検検事長になると、
東京地検特捜部はこれまでの
うっ憤を晴らすかのような
動きを始めた。
敏腕で鳴らす森本宏特捜部長のもと、
IR事業をめぐる汚職事件で、
約10年ぶりに現職国会議員の
逮捕に踏み切った背景には、
そうした事情の変化もあった。
黒川氏が法務省を取り仕切っていたら、
どうなっていただろうか。
◇ 定年が迫りつつあった黒川氏。
安倍官邸は検察対応の
キーパーソンを失いたくなかった。
検察庁法によると、
検事総長以外の検察官は63歳に達したら
退官することになっている。
とすれば、1957年2月8日生まれの
黒川氏の退官日は、今年2月8日であった。
一方、検事総長の退官は65歳に達したときだ。
◇ そこで安倍首相と官邸の面々は、
黒川氏を法務・検察組織に
留め置くための秘策を練った。
いちばん手っ取り早いのは
現検事総長の稲田氏が退任し、
黒川氏が定年に達する前に、
検事総長の座を明け渡してくれることだ。
検事総長は後任者を自ら指名するのが慣例だ。
◇ そこで、昨年末から稲田検事総長に
退任するよう説得してきたが、
稲田氏が頑として応じなかったという。
そうこうしているうちに、
黒川氏の63歳到達日が迫ってきた。
検察庁法を守るなら、もう時間切れだ。
“禁じ手” しか残されていない。
今年1月31日の閣議で、
黒川東京高検検事長の勤務を
8月7日までとすることを決めた
いきさつは、そんなところだ。
◇ 検察庁法には、
検事総長以外の検察官は、
「年齢が六十三年に達した時に退官する」
となっている。
ところが、森法相は検察庁法に
定年延長する場合の決まりが書いてないから
『国家公務員法』を適用するという。
人の一生を左右するほどの
大きな権限を持つ検察官だからこそ、
厳しい年齢規定がある。
安倍官邸にかかれば、
常識はいともたやすく覆されてしまう。
◇ 検事総長の任命権者は内閣である。
しかし、内閣からの独立性を保つため、
これまでは検事総長が
後任者を指名し禅譲してきた。
歴代の内閣には、
それを是とする寛容さと良識があった。
◇ 法務・検察組織内部で、
順当な次期検事総長候補が
林眞琴氏ということは
衆目の一致するところらしい。
稲田検事総長は林氏の
誕生日前に退任し、
林氏にバトンタッチする
腹づもりと思われるが、
そうは問屋が卸さないとばかりに、
安倍官邸は黒川氏の
定年延長カードを切ってきた。
任命権者は内閣であることを振りかざし、
官邸は稲田氏に圧力をかけるのだろう。
◇ これでは、検事総長さえも、
時の政権の都合のいい人物を
配置するという悪しき前例を
政治史に残すことになる。
国民の生活を向上させる政策が
いっこうに進まないなか、
“官邸独裁” だけは、
完成形に近づいている。 完
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