◇「次の人生を歩みましょうか」
医師は重い病を抱えた患者の枕元で、
穏やかな口調で語った。
手元のタブレット型端末で
呼び出した電子カルテ。
「1カ月後の生存確率は33%」
コンピューターがはじいた
余命が記されていた。
「次の人生は、もう治療はいらない」
患者は仕事を部下へ引き継ぎ、
娘は病棟でささやかな結婚式を挙げた……。
◇ 遠い未来の話ではない。
緩和ケアの専門家である
筑波大学の浜野淳講師は、
「自らの最期を知り、
残り少ない人生を充実させたいと
思う患者の望みにこたえたい」
と話した。
◇ すでに技術はある。
進行がんの患者約1000人の
データを調べ、
血液成分や心拍数などの
検査値のパターンが、
1週間~3カ月先の生存確率を
暗示していることに気づいた。
◇ 研究を積み重ね、
人生の締めくくりを迎える時期を
予測する方程式を導いた。
日々の検査結果を
コンピューターに入力するだけで、
健在である確率を1週間先ならば
約8割の精度で判定する。
◇ コンピューターや人工知能(AI)が進歩し、
未来を高い確率で予言できる時代が
到来しつつある。
数ある予測のなかで
「自分がいつまで生きられるのか」は、
最大の関心事だ。
医療関係者によると、
命の炎が燃え尽きようとしていても、
医師は余命を長めに
伝える傾向にあるという。
◇ 遺族からは、
「人生が残りわずかとわかっていたら、
治療の負担をなくし好きなように
過ごしてもらいたかった」
との声もあがる。
治療を続けるか、
積極的な治療を控える
緩和ケアに切り替えるか、
その判断は人には難しい場面もある。
◇ 告知の是非はともかく、
死期を察する予測技術の研究が
絶えないのはこのためだ。
世界でもここ20年、
さまざまな予測手法が検討されてきた。
米国では、患者の診断内容を入力すると
余命が示される医師向けのサイトが
すでに公開されているという。
将来について知りたいとの願いは、
古今東西に共通する。
◇ 古代ギリシャでは、
疫病の流行や戦況を占ってもらおうと
多くの人が神殿を訪れ、
巫女(みこ)が伝える神の
お告げに耳を傾けた。
現代でも、沖縄や奄美群島には
ユタと呼ばれる民間霊媒師が実在しており、
霊的問題のアドバイス、
解決を生業としている。
こうした予言の多くは
「運命」や「宿命」と受け止められた。
その時をどう迎えるかが大切で、
あらがうものではなかった。
つづく
今日一日の人生を大切に!