◇ 麻酔という世紀の発見をしたものの、
全く報われなかったウェルズ。
そのウェルズから麻酔を盗み出し、
特許まで取得したにもかかわらず、
目的の金儲けに失敗したモートン。
彼らは一体どうすれば良かったのだろうか。
◇ ウェルズは自身が発見した麻酔を
独占するつもりもなく、
それによって金儲けをしようとも
考えていなかった。
患者を痛みから解放したいという
純粋な思いがあり、
医学の歴史に自らの名前が記されれば
それで満足だった。
そのため、麻酔を無償で
仲間の医師たちに伝授したし、
公開実技で広めようともした。
「医は仁術」であり、
特許を取得して金儲けをすることなど、
考えもしなかったのである。
しかし、たとえ金儲けをするつもりがなくても、
ウェルズは特許を取得するべきであった。
なぜなら、特許を取得した上で、
使用料を無償にして
全ての医者に開放することで、
患者が痛みなく手術を安価で
受けることができるようになる。
また、特許を取得することで、
発見者としての名誉も
守ることができたはずだ。
仮にモートンの特許が
有効に維持されていたら、
麻酔はお金に余裕のある人だけが
受けられる「高価な医療」となり、
外科手術も思うように
進歩しなかったかもしれない。
◇ モートンが医療特許という
パンドラの箱を開けたことで、
「医学は算術」となってしまった。
しかし、パンドラの箱の底に
「希望」が残されていたように、
医療特許が「仁術」としての医学の発展を
加速させていることも確かなのだ。
◇ 実はウェルズやモートンより早く、
麻酔を使った先駆者はいた。
しかしそれは世界には広がらなかった。
ウェルズが発見し、
モートンが広めたことによって、
人類は誰もが麻酔を受けられるようになった。
しかし、2人には名声も富も
与えることなく、
2人は共に非業の死を遂げさせることに
なってしまったのである。
だが、ウェルズは一つだけ
恩恵を受けていたのかもしれない。
◇ ニューヨークの刑務所で
自殺したウェルズの姿は異様だった。
血の気を失い奇怪な仮面を付けたような顔、
口にはシルクのハンカチが押し込められ、
傍らにはクロロホルムの瓶が転がっていた。
ウェルズは密かに持ち込んだクロロホルムで、
自分自身に麻酔をかけていたのだ。
麻酔はウェルズに名誉も富も与えなかったが、
痛みを感じることなく自ら大動脈を切り裂き、
命を絶つことを可能にした。
これが「麻酔の発見者」に与えられた
唯一の恩恵だったのである。 完
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