◇ 1845年1月、ウェルズは
麻酔の公開実技に挑んだ。
「外科手術の痛みを感じなくさせる方法を
知っているとおっしゃるこの紳士から、
あなた方にお話があるそうです」
集まった多くの医学者や医学生を前に、
病院の外科部長J・C・ウォレンが
ウェルズを紹介する。
誰もが懐疑的な目を向ける中、
ウェルズは患者役となった学生に
亜酸化窒素を吸入させた上で抜歯を始めた。
最初は静かに眠っていた
患者役の学生だが、
しばらくすると、
うめきのような声を出し始める。
ボストンで調達した亜酸化窒素の濃度が、
ふだん使っているものよりも低く、
効き目が弱かったのだ。
固唾をのんで抜歯を見守っていた人々は
ざわつき始め、
やがて 「ペテン師!」
という罵声をウェルズに浴びせかけた。
◇ 世界初となるはずだった麻酔の
公開実技は失敗し、
ウェルズは逃げるように
その場を立ち去った。
麻酔を発見してから二カ月弱で
実施例も十数回だけ、
あまりに拙速な公開実技だったのだ。
しかし、ウェルズは
決してペテン師などではない。
それを誰よりも知っていたのが、
公開実技を手伝っていた
弟子のモートンだった。
このモートンこそ、
本物のペテン師だったのである。
つづく
今日一日の人生を大切に!