◇ 遺伝子を効率よく改変できる
「ゲノム編集」技術をヒトの受精卵に使い、
双子の女児が11月に誕生したと
主張しているとAP通信などが報じた。
◇ 中国の南方科技大学の研究者が、
事実なら、ゲノム編集で遺伝子を
操作した子供が生まれたのは世界で初めて。
同大の賀建奎副教授が
AP通信や中国メディアに語った。
◇ 大学側はホームページで
「学内では報告されていない。
学術倫理や規範に反する」
との声明を出し、調査を進める方針。
11月末に香港で開かれた国際学会で
賀建奎副教授が詳細を発表し、
出席者からは倫理的な内容の質問が
彼に集中した。
◇ 今回の研究は、
エイズウイルス(HIV)が細胞に侵入する
入り口となるたんぱく質の働きを
遺伝子操作で抑えることで、
エイズ感染を防ぐ狙いがあるいう。
◇ 男性全員がHIVに感染している
不妊治療中の7組が実験に参加、
1組が妊娠・出産した。
実際に女児がHIVの耐性を持って
生まれてきたかどうかは不明で、
今後、追跡調査するという。
◇ 受精卵にゲノム編集を施せば
遺伝病の防止などに役立つ可能性がある。
ただゲノム編集で改変した遺伝子は
子孫に伝わる恐れがあり、
受精卵のゲノム編集を法律で禁じる国もある。
日本は基礎研究のみ認める指針を国が作成中で、
2019年4月にも解禁する見通し。
南方科技大は声明で、賀副教授が2月から
休職中であることも明らかにした。
生命倫理に詳しい北海道大の
石井哲也教授は、
「中国では指針でこのような遺伝子改変は
禁止となっているはず。
もし生まれても健康障害を起こす可能性はある」
と話している。
スウェーデンのカロリンスカ研究所の
フレドリック・ラナー助教らも、
受精卵のゲノム編集の承認を審査機関から得た。
クリスパー・キャス9で、
受精卵が4細胞になった段階で、
特定の遺伝子の働きを止めて
胚や胎盤のでき方への影響をみる。
不妊症の仕組みの解明に生かす。
16年にも開始の予定だったが、
技術面の難しさや社会的関心の高まりから
時間をかけて準備を進めている。
スウェーデンは法律で受精卵の
ゲノム編集の臨床応用を禁じているが、
ラナー助教は
「技術が進めば将来、
法が改正される余地はある」
と話す。
「ゲノム編集が医療にもたらしうる利益は
極めて大きく、国際的なコンセンサスの下で
活用の道を探るべきだ」
という。
◇ 15年に世界初のヒト受精卵の
ゲノム編集を論文発表した
中国・中山大学の黄軍就教授らも
新しい研究を始めた。
ゲノムの配列を1塩基単位で変えられる
「ベース編集」と呼ぶ手法で、
ヒト受精卵の遺伝性血友病に関係する部分を
改変したと16年秋、発表した。
黄教授は
「成果は血友病やその他の遺伝性疾患の
治療に道を開き、
多くの人たちに興奮を与える内容だ」
と発言。
将来の臨床応用に期待を示した。
ゲノム編集を体の細胞に施し、
病気を治す応用法は
すでに多くの実施例がある。
ただ、受精卵など生殖にかかわる細胞
の操作は慎重論が根強い。
出産に至った場合、
ゲノム編集の影響は子孫に受け継がれ、
あとで問題が発覚しても後戻りできないからだ。
進化の過程を人為的に
変えることにもつながりかねない。
一方で、子供が明らかに
難病を発症すると知りながら
何もしないことこそ
倫理的に許されないとの意見もある。
コンセンサスづくりは難しい。
◇ 日本では内閣府の
生命倫理専門調査会が
基礎研究としてのみ容認する
見解を示しているが、
具体的な指針作りはこれからだ。
大学などの遺伝子治療の臨床研究の
指針にはゲノム編集を含んでおらず、
これから改正する。
法制度が技術の進歩に
追いつけていないのである。
今回のように誰かが、
倫理や法の壁をぶち破り、
リスクを負わないと前に進むのは難しい。
今日一日の人生を大切に!