◇ がん特効薬と呼ばれる「オプジーボ」に続き
新たな免疫療法
「CAR―T(カーティー)細胞」
がいま注目されている。
特定の白血病患者の8割に効くという
驚異的な効果の反面、
治療費は1回 7000万円 を
超えるケースも出てきた。
◇ 白血病には、CAR―T細胞療法という
新規治療法がある。
そこに今年4月、ノバルティスが
日本でCAR―T細胞をつかった
治療法「キムリア」を
申請するというニュースが出た。
患者やその家族には、
「これで命をつなげることが
できるかもしれない」
という希望が届いた。
◇ ノバルティスのCAR-T細胞「キムリア」
患者自身の細胞からつくられている
CAR―T細胞は、
小野薬品工業などが開発した
がん免疫薬「オプジーボ」と同じく、
患者の免疫を活用してがんを治療するしくみだ。
だが、オプジーボと違い
使用するのは薬ではなく免疫細胞そのもの。
◇ 患者から取り出した免疫細胞に、
がんを発見するレーダーとなる遺伝子を
組み入れて患者の体内にもどす。
体内にもどった免疫細胞は体内に潜む
がん細胞の目印を探し当てて攻撃する。
がん患者や家族が
ここまで待望する一番の理由は、
白血病に対する圧倒的な治療成績だ。
ノバルティスの臨床試験(治験)では、
抗がん剤が効かなくなり、
骨髄移植もできない状態に陥った
難治性の白血病患者の
8割以上に治療効果があった。
さらに効果があった患者の
多くでがん細胞がほぼ消失。
米食品医薬品局が迅速に承認した。
◇ 「治療成績だけでみればまさに“特効薬”だ」
製薬会社幹部は一様に口をそろえる。
実際、2016年7月に小野薬品が
ベルギーのセリアド社と
技術提携したのを皮切りに、
17年1月に第一三共が
米カイト・ファーマと、
17年9月には武田薬品が
山口大学発スタートアップの
ノイルイミューン・バイオテックと
それぞれ提携、開発に着手。
「CARレース」は混戦模様となってきた。
世界で最も早く実用化に
こぎ着けたのはノバルティスだ。
17年8月30日にCAR―T療法の
第1弾として米国で「キムリア」の承認を取得。
次に同年10月18日にはギリアド社の
「イエスカルタ」が承認された。
◇ しかし、問題はそのコストだ。
キムリアの治療価格は
1回 47万5000ドル(約5300万円)。
17年3月に英国で医薬品の価値評価を行う
英国立医療技術評価機構が
公表したCAR―T療法の値段は、
1人当たり 50万ポンド(約7200万円)
自己負担額を最小限までおさえる
日本の社会保障制度で
本当に受け入れ可能なのか。
財政面から否定的な見方をする
専門家の声も根強い。
◇ なぜこんなに高いのか。
CAR―T療法が高いのは
そもそもつくるコストが高いからだ。
一般的ながん治療で使われる
抗体医薬などは大量生産できるが、
細胞そのものを医薬品として使う場合は
そうはいかないからだ。
◇ まず患者の血液から免疫細胞を取り出して、
CARという遺伝子を組み込み培養する。
自己増殖するiPS細胞やES細胞などとちがって、
免疫細胞はそう簡単に増殖してくれない。
決まった温度で、
特定の神経伝達物質をあたえるなどして
刺激してやる必要があるのだ。
こうした作業はもちろん機械化されておらず、
ほぼ作業員による手作業だ。
しかも毎日のようにつきっきりで
細胞の様子を見まもり、
途中で死んでしまった細胞を
とりのぞいたり、
元気な免疫細胞に移しかえたり
しなければならない。
「培養のために必要な時間は
品質チェックなども含め2カ月程度」
特別なスキルをもつスタッフの
人件費だけで費用は膨大になる。
さらに患者自身の免疫細胞を使うため、
通常の医薬品のように
大量にストックすることもできない。
現時点で細胞培養を
自動化する技術が確立できていないのが
価格が高くなる最も大きな理由だという。
つづく
今日一日の人生を大切に!