◇ 必要かどうかも分からないまま、
一般消費者が迫られる部品交換や
不透明な車検の料金体系。
長い歴史のなかで、積み上げてきた
整備工場や自動車販売店、メーカー、
行政による利権構造が見え隠れする。
ただ、こうした既得権益層も、
このまま利権を貪り続けられる保証はない。
3つの波が押し寄せているからだ。
◇ 1つ目は、「人手不足」
他のサービス業と同様に、
整備業界でも人は集まりにくくなっている。
人員不足により事業継続も
難しくなりつつあり、
「外国人労働者に頼るしかない」
(業界関係者)との声も漏れる。
◇ 2つ目の波は
「不透明な商習慣を改善しようとする動き」
が「身内」から出てきていることだ。
兵庫県神戸市の整備工場。
持ち込まれた乗用車を前に、
整備士が利用客に説明を始めた。
「ここの変速機から少し油が
にじんでいるのが分かりますか。
この程度なら車検は通ります。
あまり乗られないようなら、
今回は部品を交換する
必要はないですが、どうしますか」
利用客が来店すると、
まず、車の利用頻度や
今後どれぐらい乗り続ける
つもりかをヒアリング。
整備士は工場内で
交換する必要のある部品を見せながら、
利用客にその判断を仰ぐ。
交換する部品の費用や、工賃、
必要な作業時間もその場で説明する。
利用客に的確に説明できる整備士を
育成するには時間もかかるし、
手間もかかる。
それでもこうしたサービスが定着すれば、
作業内容の透明性は高まり、
“ 過剰整備 ” が減ることで料金も
下がるかもしれない。
◇ ただ、競争原理が働く前に、
市場を縮小させかねない事態も迫っている。
利権を崩す3つ目の波は「技術革新」だ。
自動車市場ではガソリン車から
EV(電気自動車)へと、
電動化のシフトが進み始めている。
AI(人工知能)の技術開発も進み、
自動運転車の実用化競争も激しくなっている。
こうした動きが
「車検のあり方を変える」
かもしれない。
EVはガソリン車に比べて、
圧倒的に部品点数が少ない。
交換部品もそれだけ
少なくなることを意味する。
自動運転車が普及すれば、
交通事故が減るかもしれない。
そうなれば、整備や修理にかかわる
ビジネスは確実に減る。
これは世界的な流れであり、
この傾向は日本でも同じだ。
何よりも、EVや自動運転車は
ソフトウエア制御による機能が増え、
点検するノウハウが大きく変わる。
◇ いずれにしても、
今後は整備士が会得すべきノウハウや
知見はどんどん増えていくことは間違いない。
技術の進化で、自動車の故障が減り、
電動化で機械部品の減少による
部品の磨耗や消耗が少なくなるのであれば、
国が車の安全性を保証するような
車検制度はそもそも必要なのか、
という疑問だ。
少なくとも、現状の新車登録後3年、
以降は2年ごとという頻度での
車検の有用性は薄れてはいないだろうか。
車検制度が日本の自動車社会の
安全を守ってきたことは確かだ。
だが、その法的に義務付けた
世界でも珍しい車検制度が、
自動車保有者に金銭的な負担を
必要以上に強いてきた現実がある。
技術革新をはじめとする
変化の波が押し寄せている今こそ、
安心・安全の自動車社会の確立と、
誰もが納得する負担のあり方を
考える好機にしてもいいはずだ。
とりあえず、
次回の車検はディーラー以外を
検討することにする。
完
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