◇ フジテレビ系で7月12日に
スタートしたドラマ『グッド・ドクター』。
このドラマの主人公・新堂湊(みなと)は、
先天的に自閉症スペクトラム障害を
抱える小児外科の研修医だ。
自閉症スペクトラム障害には
様々な分類があるが、
社会性や他者への共感能力が
欠けていたり、
興味の範囲が極端に狭かったりと
いった特性を持ち、
それらの特性が日常生活における
コミュニケーションや仕事の障害として表れ、
結果、障害を抱えている人への
偏見や反発につながることがある。
誰もがこのドラマを観て、
「自閉症なのに医師になんてなれるわけがない」
と思われるだろう。
しかし、実際に自閉症スペクトラム障害を
抱える医師は珍しくないそうだ。
◇『グッド・ドクター』の監修者、
精神科医の西脇俊二氏も
自閉症スペクトラム障害の
一つであるアスペルガー症。
自閉症スペクトラム障害とは、
どういうものか。
自閉症スペクトラム障害を抱える人は、
脳機能の偏りが引き起こす様々な
特性を持っている。
たとえば、
相手の感情やその場の空気が読めない。
興味の幅が狭く、
細部に強くこだわってしまうため、
ものごとを俯瞰したり全体像を
把握したりすることが苦手。
自分流のルールを持っていて、
臨機応変に対応できない。
こういった症状をもとに
診断基準が決められていて、
その条件を満たし、
かつ社会生活を維持するのに
支障をきたすような場合に、
自閉症スペクトラム障害と診断される。
この程度であれば、
結構まわりにもいるような気がする。
◇ まだはっきりと究明されていないが
脳の様々な部分に萎縮があることで
障害が起こるといわれている。
たとえば、自閉症と診断された人の25%は、
感情をつかさどる扁桃体という部位が
萎縮していたという論文がある。
また、人の顔を認識する紡錘状回という部位や、
目や口の動きを認識する上側頭溝という部位も
障害されていることが多い。
だから、人の表情を読み取ることが
苦手ということになる。
もうひとつ、特徴的なのが前頭葉だ。
前頭葉にはミラーニューロンという
神経細胞があるが、
これは相手の気持ちに共感するときに
必要な機能になる。
一般的には、他人がつねられて
痛がっているのを見たら、
ミラーニューロンが働くので
自分もその痛みを想像できる。
つまり相手の痛みがわかる。
でも、自閉症スペクトラム障害の人は
それがうまく働いていないため
「痛そう」と思えず、
悪気はなくても動物のしっぽをつかんで
持ち上げてしまったりする。
このようなパーツごとの異常に加えて、
脳のそれぞれの領域が
うまく連係できていなかったり、
脳内ホルモンの分泌にも異常があったりと、
複合的な要因で自閉症スペクトラム障害に
なると考えられている。
◇アスペルガー症候群のある患者は、
「自覚していなかった頃はひどかったんですが、
今は大丈夫ですよ。
こうやってコミュニケーションを取ったり、
社会生活を送ったりできるように、
訓練してスキルを身につけてきましたから」
また別の患者は、
「私はアスペルガー症候群の特性から、
相手の気持ちをおもんぱかったり、
その場の空気を読むことができませんでした。
でも、今では「自分が笑うと相手も喜んでくれる」
といったことは理解できるようになりました」
自然と笑顔にはなれなくても、
楽しいと感じたときは笑顔に見えるように
口を「イ」と言うときの形にする。
人の話を遮らないように、
自分の言いたいことは10のうち
1しか発言しないと決める。
仕事の全体像を考えながら
段取りができないので、
タスクを細かく書き出して、
ビジュアルとしてとらえられるようにする。
生まれ持った自閉症やアスペルガー症候群の
特性は変わることはないが、
このようなスキルで足りない部分を
補うことができる。
◇医療関係者でさえ、名前は知っていても
「なにか閉じこもっている人でしょう?」
くらいの認識の方が圧倒的に多い。
しかし、
“空気が読めない” ところがあったとしても、
医師としての仕事はできる。
『グッド・ドクター』の主人公のような、
自閉症スペクトラム障害の医師は多い。
とくにアスペルガーの場合は
記憶力やIQが高いため、
医師国家試験や司法試験が得意だ。
ただ、仕事でも生活でも、
結局はスキルや知識より、
人間関係の方が大事なことは言うまでもない。
しかしこのドラマにより
この病気に関する我々の認識が変わり、
そしてさらに彼らの素晴らしい特性をうまく
取り込むことができるようになれば、
より素晴らしい社会になることは間違いない。
ぜひ、一度このドラマを観て欲しい。
今日一日の人生を大切に!