◇ 東京・銀座には「一流」と
呼ばれるテーラーが集まる。
オーダーメードで自分だけの1着を
仕立てるために、足を運ぶ政界や
経済界の著名人も少なくない。
トンビも一生に一度ぐらい、
銀座でオーダーメイドで
スーツを仕立ててみたい。
◇ フロントマネジャーなどとして約30年間、
高級スーツ店「銀座英国屋」の店頭に
立ち続けた元社長室長、市川博司さん(72)は、
今までで印象深かった顧客について
このように述べている。
71年から担当になった
本田技研工業(ホンダ)創業者の
本田宗一郎さんに色々教わりました。
ゼネストの当日にスポーツカーで
来店された時から圧倒されました。
こちらが事前に用意しておいた
生地には目もくれず、
『黒が見たい』との注文でした。
理由は
「オレはスパナを持って車の下に潜り込んで
車の修理をしなきゃならない。
油まみれになっても目立たない黒がいい」
とのことでした。
◇ 仕立て方についても本田宗一郎氏から
色々と注文があった。
「まず背広のポケットチーフの山の
部分の高さを、いつも同じにしてほしい」
これは意外に難しい。
そこでポケットチーフをボール紙に
縫い付けて胸ポケットからのぞいている
高さ、形を一定にできるように工夫した。
「冬のワイシャツはボタンの隙間から
寒風が吹き込んで寒い」
そこでファスナーで締めるワイシャツを
作ったこともあるそうだ。
形だけボタンも付けたので
見かけはそれまでのワイシャツと変わらない。
「ズボンも日本人は右利きが多いから
右のポケットの入り口を大きく浅く
使いやすくしてくれ」
との意見をお持ちでした。
またズボンのチャックについては本田氏から
「短くて下ろしにくい」 と言われ
それまでの26センチから29センチに長くした。
このアイデアはそのまま英国屋の定型となった。
◇ スーツひとつにしろ、細部にこだわり
改善に次ぐ改善を重ねる姿勢が
ホンダ車に脈々と受けつながれて
いるのであろう。
やはり本田のオヤジさんは、
並の人ではなかった。
今日一日の人生を大切に!