◇ 吸いつかれた雌の体の皮が、
だんだんと伸びてきて、
彼の唇と切っても切れないように
つながってしまう。
ここでめでたく
切っても切れない 関係になるのである。
こうして彼は,
独立した一匹の魚の立場を捨て去って、
メスの体の一部になってしまう。
それから彼の体のなかに、
さまざまの変化が起こり始めるのである。
ホ ォ 〜 〜
まず、唇をふさがれてしまったということは
メシを食べることができないということである。
そこで
食物をとるすべを失った彼の体の中で、
役に立たなくなった消化器官が、
だんだんと消えてなくなる。
次に、独立した生活のとき必要であったが、
今はこんな状態では必要でなくなった
諸器官までがだんだんと姿を消してゆく。
メスにくっついて移動してゆくからには、
当然眼などは不必要である。
で、 眼はすっかりなくなってしまう。
眼がなければ、もはや脳も
不必要だということになる。
すなわち、
脳も退化して姿を消してしまう。
ホ ォ 〜 〜
すっかりメスの体の一部となった彼は、
その血管がメスの血管とつながり、
それを通じて全部メスから養われ、
あげくの果て、
彼はメスの体に不規則に突起した
いぼのような形にまで成り下がってしまう。
そこまで成り下がるのか!!
いぼ にまで成り下がっては、
彼は自身の存在の意義を失ったように見えるが、
ただひとつだけ、 ただひとつだけ
器官を体の中に残しているのである。
それは ....
それは 精 巣 である。
ホォ〜 〜 残っていたか あれが。
これだけは温存しておったか!
子孫を残すために大事に残してしていたのだ。
そして
メスがその卵を海中に産み放すとき、
ほとんど精巣だけとなった彼は、
全機能を発揮して、(あれしかないけれど)
最後の力をふりしぼって
その精子を海中に放出する。
*男なら彼の気持ちは痛いほどわかるだろう。
深海であるから流れの動きが
ほとんどないので、
その精子は洗い流されることもなく、
メスの卵にうまくくっつくのである。
この、この最後の瞬間のことを考えると、
トンビは、なにか深い哀しみというか
感動さえ覚えるのである。
どういう感動かということは、
うまく言えないけれども。
完
今日一日の人生を大切に!
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